~不思議さいえんす・高校生物講座~ 【核酸とタンパク質の化学】
以前に述べたように、「生きている」とは、
① 単独で自己複製(自分と同じ子が作れる)ができる事
② 代謝(体の中で物質を合成したり分解したりする)ができる事
が最低条件である。前回までで生体膜の話が一段落ついたので、ここからは、
①,②のテーマについて順次、話を進めていきたいと思う。
しかし、その理解のためには、「核酸(DNAとRNA)とタンパク質の化学」に
関する知識を深めておく必要がある。
遺伝情報を蓄えたDNAは、真核細胞では、大部分が核に含まれている。
核では、DNAの情報をもとに様々なRNAが合成され、細胞質に移行する。
これらのRNA(mRNA,tRNA,rRNAなど)の多くはリボソーム上でタンパク質
合成にはたらく。
合成されたタンパク質は、酵素として細胞質や核で代謝を促進する一方で、
細胞骨格のように、細胞内で構造タンパク質として存在する。
★ 細胞骨格
真核生物では、細胞質内に細胞骨格と呼ばれる繊維状
のタンパク質が網目状に広がり、様々な細胞の形を支え
ている。細胞膜がリン脂質を主成分としているため、もし
細胞骨格がないと、細胞は球に近い形にしかならない。
□核酸(DNAとRNA)の構造
核酸は1869年に、スイスのミーシャーによって発見された化学物質である。
彼が最初に膿(うみ)の細胞の核から、この物質の抽出に成功したことに
ちなんで核酸と名付けられたが、現在の知識によれば、ミーシャーが抽出
した物質は、核酸の1つであるDNAとタンパク質の複合体であった。
DNAの発見にしばらく遅れて、もう1つの核酸であるRNAも発見されたが、
これは細胞の核よりもむしろ細胞質に豊富に含まれる核酸である。
さて、核酸は、すべての生物にとって、その生命の進むべき道を示す重要な
地図であり、生命自体をつくり上げるための設計図であって、遺伝情報は、
核酸の中に蓄えられ、新しい世代へと受け継がれていく。
核酸には、DNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)という2種類の分子が
あり、ともにヌクレオチドが多数結合した高分子である。
糖に塩基が結合したものをヌクレオシドというが、このヌクレオシドにリン酸が
くっついたものが、ヌクレオチドである。
糖部分は、5つの炭素原子を含む五炭糖で、DNAでは、その2’位の炭素に
水素基(-H)が結合したデオキシリボース,RNAでは、その2’位の炭素に
水酸基(-OH)が結合したリボースと呼ばれる糖からなっている。
「デオキシ」の「デ」は「取り去る」、「オキシ」は「酸素」という意味であって、
デオキシリボースは、リボースの2’位の炭素に結合しているOHからOを
取ったものになっているということである。
《補足》 2’は、「2プライム」と読む。
塩基は、DNA中に アデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)
の4種類が、RNA中には A,G,Cとウラシル(U)が含まれている。
ヌクレオチド同士は、リン酸ジエステル結合でつながっていく。
リン酸ジエステル結合とは、隣り合うヌクレオチドが五炭糖の 3’及び 5’位の
炭素がリン酸を介してなされるエステル結合のことである。
また、核酸において、五炭糖の5’位の炭素がリン酸ジエステル結合を行って
いない末端を 5’末端、3’位の炭素がリン酸ジエステル結合を行っていない
末端を 3’末端と呼んでいる。
核酸の側鎖を形成している塩基の並び方が、遺伝情報を決定している。
そして、DNAとRNAの大きな違いは、前者が通常 2本鎖の状態で存在する
ことである。1953年にワトソンとクリックは有名なDNAの二重鎖モデルを発
表したが、このモデルには、次のようなDNAの二つの特徴が含まれている。
① 二重鎖の中で、AとT,GとCは水素結合により強く結びつく性質がある。
このような結合を塩基対といい、AとT,GとCのような関係を相補性という。
② DNAは一見同じ方向にからみついているように見えるが、実際には2本
のDNA鎖は5’末端から3’末端に向かう方向性が逆になっている。
これらの特徴により、DNAの二重鎖は、右巻きのらせん構造をとっている。
なお、①で述べた相補性に基づく二重鎖はDNA同士の間だけでなく、RNA
鎖同士、DNA鎖とRNA鎖の間にも形成される。その場合には、AとU,GとC
が相補性をもった関係である。
また、二重鎖は別々の核酸鎖の間で形成されるばかりでなく、一つながりの
鎖でも折れ曲がることによって相補的な配列同士が部分的に二重鎖を形成
することがある。
□タンパク質の構造
タンパク質は、DNAの情報をもとに作られ、細胞内の様々な作業を請け負う
「機能分子」で、多数のα-アミノ酸がペプチド結合でつながったポリペプチド
である。
α-アミノ酸の構造は、真ん中に炭素があって4本の手が出ていて、その手
には水素、アミノ基、カルボキシル基、R(側鎖)が結合している。
なお、タンパク質を構成するアミノ酸は、20種類に限られている。
※ 動物では、この20種類のアミノ酸のうち、自らの体内で合成する
ことができず、体外から摂取するしかないアミノ酸があって、それは
必須アミノ酸と呼ばれている。
必須アミノ酸は、動物の種によって、その種類が異なっている。
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【参考】 ヒトの必須アミノ酸は、
フェニルアラニン,トリプトファン,リシン,メチオニン,
ヒスチジン(幼少期のみ),ロイシン,イソロイシン,
バリン,トレオニン[threonine]→「th」を「ス」とみる
なので、頭文字を取って、”フトリメヒロイバス(太りめ広いバス)”
と覚えることができる。
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ポリペプチドを構成するアミノ酸の配列をタンパク質の一次構造と呼ぶ。
細胞は、遺伝子DNAの遺伝情報に従って、アミノ酸を並べて、一定の一次
構造をもったタンパク質を合成する。
そして、一定のアミノ酸配列をもったポリペプチド鎖は、ペプチド結合のイミノ
基(-NH-)のHが少し離れた場所のカルボニル基のOと形成する水素結合
により、らせん階段のような構造(らせん構造またはα-へリックス構造)や
屏風を折り畳んだような構造(ジグザグ構造またはβ-シート構造)をつくる。
このような立体構造をタンパク質の二次構造と呼ぶ。
タンパク質には、硫黄を含むアミノ酸であるシステインが含まれているので、
二次構造をつくったタンパク質は、S-S結合と呼ばれる橋渡し構造などを
形成して、さらに折りたたまれて複雑な立体構造となる。この複雑な構造
をタンパク質の三次構造と呼び、三次構造をつくったタンパク質が、さらに
数個集まってつくる構造を、タンパク質の四次構造と呼ぶ。
タンパク質の機能は、こうした高次の構造によって決定される。
このことは、同じ一次構造をもったタンパク質であっても、立体構造の違い
で機能が変わることを意味しており、例えば、BSE(牛海綿状脳症)の原因
となる異常プリオンは、正常プリオンと立体構造が違うだけである。
また、多くのタンパク質は、熱を加えたり、溶液の pH 値を変えたりすること
などにより、分子の立体構造が変化(変性)し、そのはたらきを失う(失活)。
□代謝と酵素
生物が外界から物質を取り入れて生体内で行う化学反応を代謝というが、この
代謝には、次の3種類がある。
1)同化
生物が細胞内で、外から取り入れた簡単な物質から複雑な物質を作る合成
反応を同化といい、原子や分子同士を結びつけるための化学エネルギーを
必要とする過程である。
同化には、光合成のように二酸化炭素と水素から糖質を合成する炭酸同化
や無機窒素化合物からアミノ酸を合成する窒素同化などがある。
2)異化
細胞内で、同化物質をより簡単な物質に分解して化学エネルギーを放出する
過程を異化という。
異化には、酸素を使う好気呼吸と酸素を使わない嫌気呼吸とがある。
3)消化
細胞内や細胞外(消化管内)で行われる、化学エネルギーの放出を伴わない
分解反応を消化という。消化では、タンパク質・糖質・脂肪が消化酵素の働き
で、体内に吸収可能な段階まで分解される。
《参考》 メタボリックシンドローム
「メタボリック」は〈代謝の〉、「シンドローム」は〈症候群〉という意味で、
主に40歳以降運動不足で蓄積する内臓脂肪によって、血液中の糖
や脂肪を分解する体の代謝が正常でなくなり、「肥満」、「高血圧」、
「高血糖」、「高脂血症」などの生活習慣病が引き起こされた状態を
『メタボリックシンドローム』と呼ぶ。
この代謝を促進しているのが、細胞内に存在する酵素である。
酵素は、自分自身は変化せずに化学反応の速度を変化させるはたらきをする
生体触媒であり、酵素分子は、タンパク質、あるいは、タンパク質と他の物質が
結びついたものからできている。そのため、無機触媒と違い、温度が高すぎると
変性して失活してしまう。
また、各々の酵素がはたらく相手の物質(基質)は決まっていて、特定の酵素
は特定の基質のみに作用する。このような性質を基質特異性という。
これは、鍵と鍵穴の関係によく似た関係で、酵素の立体構造の一部にちょうど
鍵穴に相当する部分(活性部位)があって、その構造にぴったりとはまり込む
構造をもつ基質がそこへ結びつくと、酵素が基質に働きかけて化学反応を促進
するのである。
活性部位は、特定の基質を認識して結合させることと、結合した基質にはたら
いてその化学反応を進行させることの2つの役割を担っている。
酵素は、その働きによって、
酸化還元酵素…基質から酸素や水素を外したり、結合させたりする。
[例] カタラーゼ(過酸化水素の分解),脱水素酵素
加水分解酵素…基質に水を加えて分解する。
[例] アミラーゼ(デンプンをマルトースに分解),
ATPアーゼなど
合成酵素(リガーゼ)…ATPなどのエネルギーを用いて2分子を結合させる。
[例] DNAポリメラーゼ,RNAポリメラーゼなど
転移酵素…基質分子の一部(アミノ基・リン酸基など)を他の分子に移す。
[例] アミノ酸転移酵素,クレアチンキナーゼ(ADP→ATP)
などのように分類できる。