~不思議さいえんす・高校生物講座~ 【細胞の構造とそのはたらき(5)】
□ 透過性について
・全透性 ─-─→ 溶媒も溶質も通す性質 … 細胞壁
・半透性 ─-─→ 溶媒のみ通す性質 … 浸透現象(原形質分離・溶血など)
・選択透過性 → 特定の物質のみ通す性質 … 受動輸送と能動輸送
・不透性 ─-─→ 溶媒も溶質も通さない性質
□ 選択透過性と膜透過のしくみ
細胞膜の選択透過性は、受動輸送と能動輸送とによって保たれている。
ところで、細胞膜はリン脂質の2重層の膜なので、疎水性物質は自由に通過
できるが、親水性物質は通過できない。そこで、細胞膜には親水性の物質を
細胞内外に移動させるシステムとして、膜輸送タンパク質が存在している。
膜輸送タンパク質には、チャネルと呼ばれるものと、トランスポーター(輸送体)
と呼ばれるものとがあり、トランスポーターは、更にキャリア(担体)とポンプと
にわかれる。
そして、受動輸送には、膜輸送タンパク質を用いない単純拡散と、膜輸送タン
パク質のチャネルまたはキャリアを用いる促進拡散の2種類があり、能動輸送
には、ポンプが関与している。
★受動輸送
受動輸送とは、膜を横切る拡散であり、膜内外にある濃度勾配に従って、
エネルギーを用いずに、物質をその濃度の濃い側から薄い側へと輸送する
ことをいう。
① 単純拡散 … リン脂質層を通じての透過
分子量が小さい物質や脂質になじみやすい物質(尿素,エチレングリコール,
アルコール類など)は、細胞膜のリン脂質の部分を通過でき、単純拡散する。
② 促進拡散 … 膜輸送タンパク質を利用した拡散
一方、水溶性のイオンや分子量の大きい物質は、細胞膜のリン脂質の部分
を透過できない。細胞膜のリン脂質の部分の内部が疎水性だからである。
そこで、こうした物質の透過は、膜輸送タンパク質のチャネルまたキャリアに
よって促進される。その結果なされる拡散は促進拡散と呼ばれる。
A.チャネルを通じての透過
チャネルは、細胞膜に突き刺さった”ちくわ”のようなタンパク質である。
物質はチャネルの”ちくわ”の穴を通り抜けて膜を横切ることができるが、
チャネルは、次のような性質を持っている。
◆ ナトリウムイオンチャネルを通り抜けられるのは、ナトリウムイオン
だけというように、特定のチャネルは特定の物質しか通さない。
◆ ある物質について、細胞の内外で濃度差がなければ、その物質が
チャネルを通り抜けて移動することはない。
◆ チャネルには、ナトリウムイオンチャネルのようにゲートを持つものと
カリウムイオンチャネルのようにゲートを持たないものとがある。
ゲートを持つタイプのチャネルは、ゲートの開閉によって、イオンの
透過性を変えることができる。
※水チャネル※
細胞膜には水チャネルも存在しており、このチャネルは、水が浸透に
よって細胞膜を透過するよりも遥かに大きな速度で水を透過させる。
B.キャリアを利用した透過
キャリアは、文字通り、細胞膜における「運び屋」で、”フェリーボート”の
ようなはたらきをするタンパク質である。
物質は、細胞膜の表面でキャリアと結合して複合体の形で膜内を移動し、
膜を隔てた反対側で、物質がキャリアから離れて透過が完了する。
この透過の例として、赤血球膜におけるグルコースの輸送などがある。
★能動輸送
能動輸送とは、エネルギーを用いて、膜内外にある濃度勾配に逆らって物質
をその濃度の薄い側から濃い側へと輸送することをいう。
この能動輸送の際に活躍するのが、ポンプである。
ポンプは、チャネルとは違って、物質を濃度勾配に逆らって移動させることが
できる膜輸送タンパク質であり、物質が拡散しようとするのに逆らって力ずくで
輸送するために、エネルギー(ATP)を必要とする。
ポンプには色々な種類があるが、代表的なものがナトリウム-カリウムポンプ
である。ナトリウム-カリウムポンプは、細胞膜上にあって、細胞内のナトリウム
イオンを外へくみ出し、外のカリウムイオンを細胞内に取り込むはたらきをする。
ポンプは、もともとチャネルから進化したもので、チャネルの片側(細胞内側)
にATPアーゼ(ATP分解酵素)がくっついたものである。
【ナトリウム-カリウムポンプのしくみ】
ナトリウムイオンが、ポンプにくっついたATPアーゼ(細胞内側)に結合すると、
酵素がATPからリン酸を受け取り(リン酸化)、その結果ポンプの立体構造が
変化して、ナトリウムを細胞膜を横断して細胞外に排出する。
そして、リン酸化されたATPアーゼに細胞外のカリウムが結合すると、リン酸
を放出(脱リン酸化)して、ポンプの立体構造がもとに戻り、その際、カリウム
を細胞内に取り込むことになる。
したがって、カリウムを取り込むときには、ATPは不要である。
※ATPについて※
ATPは、アデニンという塩基とリボースという糖が結合したアデノシンに3個
のリン酸が結合した物質で、正式名称をアデノシン三リン酸という。
エネルギーは、リン酸とリン酸をつなぐ結合(高エネルギーリン酸結合)に
蓄えられていて、この結合が加水分解するときにエネルギーが放出される。
ATPは、ADP(アデノシンニリン酸)とリン酸に分解するときに、エネルギー
を生じ、逆に、ADPとリン酸はエネルギーを受け取ってATPとなるのである。
充電式電池で例えると、ATPがフル充電された状態で、ADPはエネルギー
を消費した状態であると言える。
また、すべての生物が、ATPが分解されるときに出てくるエネルギーを生命
活動に利用しているので、ATPは”エネルギーの通貨”にも例えられる。
なお、ATPはかなり大きな分子であり、細胞の外から細胞内に輸送される
ことはなく、すべて細胞内でつくられている。
※共輸送※
細胞膜のナトリウムイオンとカリウムイオンの交換輸送や筋小胞体のカル
シウムイオンの取り込みなどの能動輸送は、ATPを用いるポンプによる
直接的な能動輸送だが、糖やアミノ酸の取り込みなどの能動輸送は、その
ような直接的な能動輸送ではなく、キャリアにナトリウムイオンと糖(または
アミノ酸)が共に結合して行われる。これを共輸送という。
共輸送は、一見、キャリアによる受動輸送のように見えるが、あくまでも、
ポンプにより、細胞外のナトリウムイオン濃度が細胞内に比べて遥かに高く
保たれているために起こる現象であり、実際、ポンプによる直接的な能動
輸送を阻害してしまうと、細胞外のナトリウムイオン濃度がチャネルを通じた
拡散によって低くなって、この共輸送は止まってしまう。
そのため、共輸送は、ATPがナトリウムイオンの濃度差を保持することで、
間接的に糖やアミノ酸の輸送のエネルギーを供給していると見なせる間接
的な能動輸送に分類されている。
共輸送は、高校学習指導要領の範囲外の内容であるが、過去に京大など
で、実験考察問題として出題されている。
高校生物では、キャリアについては一切学習しないので、教科書の知識
だけで純粋に実験考察問題として解くのは、かなり無理がある。
また、この共輸送は、腎臓の細尿管と毛細血管との間でのアミノ酸吸収や
小腸でのグルコース吸収などで行われており、人体生理学上重要である。
□ 細胞膜の性質(3) … その他のはたらき
① 食作用
細胞表面にくっついた小さな固形物を膜で取りまいて、小胞をつくって細胞内
に取り込むはたらきを食作用という。取り込まれた固形物は、そのまま消化・
吸収される。
② 飲作用
細胞表面にくっついた溶液状態の物質を膜で取りまいて、小胞をつくって細胞
内に取り込むはたらきを飲作用という。
③ 受容体(レセプター)としてのはたらき
細胞膜に存在するタンパク質の中には、外部からの刺激や情報となる物質を
受けとめるはたらきをするものがある。
そのようなタンパク質を、受容体(レセプター)という。受容体の種類は組織や
細胞によって違っており、特定の刺激や物質にしか反応しない。
なお、受容体には、細胞膜にあるものと細胞内にあるものとがある。