~理系頭に優しい古典文法~ 【敬語(3)】
□敬意の方向
①地の文の場合
尊敬語 … 筆者 → 動作をする者
謙譲語 … 筆者 → 動作を受ける者
丁寧語 … 筆者 → 読者
②会話文の場合
尊敬語 … 話し手 → 動作をする者
謙譲語 … 話し手 → 動作を受ける者
丁寧語 … 話し手 → 聞き手
上のまとめでわかるように、
まず、動作をする者が身分が高い場合、筆者(あるいは話し手)は、尊敬語を
用いて敬意を払う。つまり、尊敬語は「誰が」に対する敬意なのである。
これに対して、動作をする者は身分が高くなく、その動作を受ける者が身分が
高い場合、筆者(あるいは話し手)は、謙譲語を用いて敬意を払う。つまり、
謙譲語は「誰に」に対する敬意なのである。
また、身分関係と無関係に、「筆者→読者」,「話し手→聞き手」への敬意を
払う語が、丁寧語になる。
そして、留意したいのは、「敬意の発生源」は、尊敬・謙譲・丁寧のいずれの
場合であっても、すべて”筆者(あるいは話し手)”からになることである。
要するに、敬語とは、話題に上っている世界について、
第三者の立場にいる”筆者(あるいは話し手)”が
動作をする者や受ける者の身分関係を考慮して使用する言葉
なのである。
□敬語の特殊な用い方
● ニ方向への敬意
一つの動作に対して、動作をする者と動作を受ける者への両者に対して、
同時に敬意を表す。この敬語表現は、筆者(あるいは話し手)にとって、その
動作をする者と動作を受ける者とが、ともに敬わなければならない時に用いる。
[例1] (かぐや姫は)いみじく静かに、公に御文 奉り たまふ。 [竹取物語]
現代語訳:(かぐや姫は)たいそう静かに、天皇にお手紙を差し上げなさる。
★ この例では、
”かぐや姫が天皇にお手紙を出す”という一つの動作について、
「奉り」,「たまふ」というニつの敬語が用いられている。
こうすることで、動作をする者であるかぐや姫と動作を受ける者である
天皇の両方に対して同時に敬意を表しているのである。
奉り … 本動詞としての用法。「与ふ」の謙譲語。物語の筆者が
お手紙を出したかぐや姫を低めることによって、お手紙を
受け取る天皇を敬った表現。
たまふ … 補助動詞としての用法。尊敬語。物語の筆者が、天皇に
手紙を出すかぐや姫を敬った表現。
[例2] (北山の僧都が尼君に話しかけている会話文)
「この世にののしりたまふ光源氏、
かかるついでに見 たてまつり たまは むや」
[源氏物語]
現代語訳:「この世に評判の高くていらっしゃる光源氏様を、
このようなついでに見申し上げなさいませんか。」
★ この例では、動作をする者は尼君で、動作を受ける者は光源氏である。
たてまつり … 「見る」という動詞についた補助動詞。謙譲語。
僧都が尼君に言った会話文に用いられているので、
話し手である僧都が、「見る」という動作をする者である
尼君を低めることによって、動作を受ける者である源氏を
敬った表現。
たまは … 尊敬の補助動詞で、話し手の僧都が動作をする者である尼君
を敬った表現。
● 二重尊敬
尊敬の言葉を二つ重ねて用い、動作をする者に対して特別高い敬意を表す。
[例] (帝が)御覧じて、いみじう驚かせ たまふ。 [枕草子]
現代語訳:(帝が)ご覧になって、ひどく驚きになる。
★ この例では、「せ」という尊敬の助動詞と「たまふ」という尊敬の補助動詞が
二つ重ねて用いられている。
注)会話文の中では、身分の高くない人に対しても、この表現を用いること
がある。これは話し手が、話題にのぼらせる人物を重要視して敬うことが
あるからなのだ。
● 自敬表現
天皇などの高貴な身分の人が、自分自身を高めるために用いる表現で、
・ 自分の動作に尊敬語を用いる場合
・ 相手や第三者の動作に謙譲語を用いる場合
とがある。
[例] (帝は)「① 汝が持ちてはべるかぐや姫奉れ。
② 顔かたちよしと聞こしめして、
③ 御使ひを賜びしかど、かいなく見えずなりにけり」と
(翁に)仰せらる。
[竹取物語]
現代語訳:(帝は)
「① お前が持っているかぐや姫を献上せよ。
② 容貌が優れていると聞いて、
③ 御使いをつかわしたが、その甲斐もなく会う事ができなかった」と
(翁に)仰る。
★ この例で、天皇は、竹取の翁に語るのに、
自己の行為に、尊敬語(②の「聞こしめし」及び③の「賜び」)を用いて、
相手である翁の行為に、謙譲語(①の「奉れ」)を用いている。
これらはすべて、天皇から天皇自身に対する敬意の表現である。