~不思議さいえんす・高校生物講座~ 【細胞の構造とそのはたらき(4)】
□続・浸透圧
前回は、半透性と浸透圧の基本について説明をした。
今回は、この浸透圧についての問題を取り扱ってみたいと思うが、その前に…
◆梅酒をつくるとき、粉砂糖ではなく氷砂糖を使うのはなぜ?
梅の皮も果肉も、当然、細胞からできている。
そして、細胞ひとつひとつを包んでいる膜は、目で見てもわからないけど、
ミクロの穴が開いていて、小さな分子やイオンを通す。
特に水の分子は通りやすく、ある物質の濃さが膜の両側でちがうと、
濃い方を薄めようとして水の分子が入っていく。見方を変えると、
濃い側が薄い側から水を吸い出すということ。この勢いを浸透圧という。
もちろん、浸透圧は、濃度が高いほど大きい。
さて、焼酎にすぐに溶けやすい粉砂糖を使うと、梅の実の外側はたちまち
「砂糖の濃い焼酎」になるので、実の中にいる水は焼酎の方にどんどん
吸い出されて実がしぼんでしまい、肝心の梅のエキスが溶け出しにくくなる。
氷砂糖を使うと、砂糖はすぐ濃くはならないので、焼酎のアルコール、つまり、
エタノール分子が梅の実に染み込んで、ただの水には溶けにくい梅のエキス
を引き出す。そして、やがて氷砂糖が溶けてくると、焼酎の側の浸透圧が
ぐっと高くなって、エキスたっぷりの溶液を梅の実から引き出して、美味しい
梅酒ができるというわけである。
なお、浸透圧の原理は、梅酒の製造だけではなく、料理において、よく利用
されている。
例えば、漬物をつける際に塩を多く入れるのは、野菜の水分を浸透現象に
より搾り出して、野菜自体が元々持っている塩分の濃度を高くするためで
あると同時に、漬物樽に侵入してきた細菌から水分を搾り出して死滅させる
ためでもある。有史以来、塩漬けや砂糖漬けの食品が長期保存用として
つくられてきたのは、こうした浸透現象による細菌の死滅作用があったからだ。
また、魚を焼く前に塩を振るのも、表面に味を付けるだけでなく、浸透現象に
よって水分を吸いだして身を引き締めるという目的がある。
学校で学ぶようなことは日常生活では殆ど役に立たない…とよく言われるけれど、
それは大きな大きな間違いなのだ。
今度は気分を変えて、問題でも解いてみましょうか。(^O^)d
<問題>
【1】 次の文章の[ ]に適する語句や数字を記せ。
植物細胞を[ ア ]液に入れると、体積が増大して細胞膜の外側にある
細胞壁を押し広げようとする。この力を[ イ ]という。細胞内に水を浸透さ
せる[ ウ ]は、浸透圧と[ エ ]との差として示される。また、植物細胞を
[ オ ]液に入れると、細胞内の水が外に出て細胞膜が細胞壁から離れて
しまう。これを[ カ ]という。
動物細胞、例えばヒトの赤血球を[ キ ]液に入れると、赤血球は破裂
する。また、赤血球を[ ク ]%の生理食塩水のような[ ケ ]液に入れた
ときには、赤血球は変化することはない。
【2】 ユキノシタの葉の表面に一層に並ぶ表皮細胞を剥ぎ取り、ある濃度の
スクロース溶液に浸したところ、原形質分離を生じた。次に、このスクロ
ース溶液の代わりに、同じモル濃度のグルコース溶液に浸したところ、
細胞の容積はいったんスクロース溶液に浸した場合と同じになったが、
しばらくすると、細胞の容積は次第に増加した。この理由として、正しい
ものを、次の①~④のうちから1つ選べ。
① グルコースが細胞内へ拡散し、水が細胞内へ浸透したから。
② グルコースが細胞内へ拡散し、水が細胞外へ浸透したから。
③ グルコースが細胞外へ拡散し、水が細胞内へ浸透したから。
④ グルコースが細胞外へ拡散し、水が細胞外へ浸透したから。
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<解答>
【1】 ア:低張,イ:膨圧,ウ:吸水力,エ:膨圧,オ:高張,
カ:原形質分離,キ:低張,ク:0.9,ケ:等張
【2】 ①
<解説>
【2】 この問題を見て、何だか不思議な気がした人がいるかもしれない。
そういう人は、
グルコースが細胞膜を透過する?溶質でしょ?
細胞膜って、半透膜でしょ?変じゃない?
といった疑問が湧いたのかもしれないね。しかし、実は前回、
「細胞膜は完全な半透膜ではなく、特定の物質だけを積極的に
出し入れできる膜である」
と述べておいた。次の項で説明する選択透過性と関係があるのだが、
とりあえずは放っておく。幸い、この問題は選択問題であり、しかも
正しいものが一つあることは、問題文によって保証されている。
何とかなるはずだ。単純に考えていこう。
まず、問題文に、「細胞の容積は次第に増加」とあるから、水が細胞
内に浸透したとしか考えられないので、①または③しか有り得ない。
そして、水が細胞内へ浸透したということは、細胞内が濃くなっている
はずである。細胞内が濃くなるのは、①以外有り得ない。
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□ 細胞膜の性質(2) … 選択的透過性
細胞膜は特殊な半透膜で、細胞が接する溶液中から、細胞にとって必要な溶質
を選択的に透過させる性質をもっている。
このような性質を、細胞膜の選択透過性という。
選択透過性は、生きている細胞に特有な性質で、セロハン膜のような無生物の
半透膜では見られない。
さて、詳しい話に行く前に…
◆昆布は、なぜダシが海水に溶け出さないのか?
昆布の旨味成分であるグルタミン酸は、生命活動に必要な物質である。
そうした大事な物質が外に出ないようにしっかりガードする仕組みを生き物
は持っている。昆布は海水から色々な物質を取り込んで、要らない物質を
海水に出すが、物質が出入りするのは表皮の細胞。そういう細胞の膜には、
選択透過性という、物質の交通整理をする力があって、それにはエネルギー
が必要になる。しかし、それは生きている間の話。死んでしまえばその力は
なくなるし、煮込んだら表皮の細胞も壊れて、成分がドンドン出てくる。
生きている昆布の細胞の膜に、選択透過性があるから、ダシが海水に溶け
出さないのである。
言われてみれば、当たり前のことだけど、上の文で出てきた選択透過性は、
その中でも、能動輸送と呼ばれるものだ。
◎能動輸送 … 細胞膜は、拡散による受動的な物質の移動を調節するだけ
でなく、特定の物質を、濃度勾配に逆らって、濃度の低い方
から高い方へ通過させることも行っている。
この働きを能動輸送というが、例えば、ヒトの赤血球では、
細胞内のナトリウム濃度が細胞外に比べて低く、細胞内
のカリウム濃度が細胞外に比べて高いのも、この能動輸送
の働きによるものである。これは、受動輸送によって細胞内
に入ったナトリウムが能動輸送によって細胞外に排出され、
逆に受動輸送によって細胞外に出たカリウムが能動輸送に
より細胞内に取り入れられるからである。
こうした能動輸送には、エネルギーが必要で、細胞の呼吸
によってつくられるATP(アデノシン三リン酸)のエネルギー
が用いられる。
ところで、能動輸送について、この説明ですべてが納得いっただろうか?
実は、納得がいくようではいけない。もっと深く理解する必要があるのだ。
そもそも、この説明がわかりにくいのは、選択透過性の総論理解が浅いから
である。そこで、もう少し詳しい説明を追加する。
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【選択透過性の詳細】
細胞膜は、リン脂質とタンパク質からなる。
分子量が大きい物質や電荷をもつイオンは、リン脂質を通過できないが、
分子量が小さい物質や脂質になじみやすい物質(尿素,エチレングリコ
ール,アルコール類など)はリン脂質の部分を通過できる。
また、細胞膜を構成するタンパク質の中には、分子量が大きい物質や
イオンを通過させる働きがあるため、細胞膜を透過できる場合がある。
このような、物質による透過性の違いを選択透過性という。
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これで少し見通しが良くなったはずである。なぜか?
それは、細胞膜の構造と選択透過性とを結びつける情報が加わったからだ。
能動輸送の問題ではないが、浸透圧と選択透過性の絡んだ有名問題である
次の1題解いてみよう。
<問題>
同じモル濃度の尿素溶液A、およびショ糖溶液Bに、アオミドロの細胞
を浸した。溶液Aに浸した細胞の原形質の容積は、はじめ縮小したが、
しばらくすると元の大きさに戻った。一方、溶液Bに浸した細胞の原形質
の容積は縮小していき、しばらくすると容積変化が止まって、その後は
変化しなかった。このような違いが生じた理由を50字以内で述べよ。
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<解答>
細胞膜には選択透過性があり、尿素は受動輸送によりゆっくり透過する
が、ショ糖は透過しないから。 (46字)
<解説>
先程、同様の問題を解いたので、考えやすかったかもしれないが、そうで
なければ、なかなか手強い問題である。
まず、半透性と浸透現象しか頭に浮かばないと、原形質を起こすにも
関わらず溶質であるはずの尿素が、半透性を持った細胞膜を透過すると
いう現象が理解しにくい。また、選択透過性について教科書程度の知識
しかないと、解答を見ても、なかなかしっくりこないであろう。
さて、問題で述べられている現象のうち、Aの場合について解説しておく。
Aの場合、はじめの段階では、尿素はまだ細胞内に入っておらず、細胞に
比べて溶液Aが高張であるために、水が細胞外に出ていき、細胞の体積
は減少する(原形質分離)。
しばらくすると、尿素が細胞内に入り、細胞の浸透圧が溶液Aよりも高く
なって水が細胞内に浸透してくる。そのために細胞の体積は元の大きさ
に回復する(原形質復帰)。
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よく「東大は検定教科書だけで合格する」ということが言われる。
だが、それは半分本当で、半分ウソである。
検定教科書=”基礎の象徴”とするならば、それは本当である。
だが、検定教科書=”そこに書かれている内容”とすれば、それはウソである。
選択透過性について、上記の【詳細】のレベルまで述べた検定教科書はない。
しかし、この程度の知識に立った理解がなければ、東大レベルの問題を解いて
いくことは極めて困難である。
東大は、大学の生物系科目の内容から、入学者に身につけてきてほしい
”基礎”を逆算して出題しているからだ。
次回、選択透過性と能動輸送については、更に掘り下げていく。