~理系頭に優しい古典文法~ 【助動詞(2)】

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~理系頭に優しい古典文法~ 【助動詞(2)】

◆文法用語としての「推量」と「推定」
 ・推量 … 「こうだろう」と推しはかる気持ちを表す言い方。
 ・推定 … 「推量」の中でも高確率で、ある根拠に基づいて確信を持ちつつ
       物事を推しはかる意を表す言い方。

□推量の助動詞
 1)「む・むず・らむ・けむ」
  ◎【相関図】
    --------------------------------------------------------
               「む」
               │                   
           <時制の違い>        ※「む」が基本で、推量する        
        ┌────┴────┐       時制が限定されたものが    
      現在推量         過去推量    「らむ」と「けむ」であること
        ↓             ↓       をまずおさえましょう。
       「らむ」           「けむ」
    --------------------------------------------------------
    「むず」は、鎌倉時代以後多用された語で、「む」と同じと考えてください。

  ◎「む」「むず」(※「ん」「んず」と表記することもあり)
    ★活用
        ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
                 未然 連用  終止 連体 已然 命令
          「む」  ┃  ○   ○   む   む   め   ○
        ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
        ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
                未然 連用 終止  連体  已然  命令
          「むず」 ┃ ○  ○  むず  むずる むずれ  ○
        ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

    ★接続 … 活用語の未然形に接続します。

    ★意味
     「む」「むず」は、推量の助動詞に分類される助動詞ですが、
     意味は何と6種類もあります。

     それは、 【意志】【適当・勧誘】【推量】【仮定・婉曲】です。
     ”富豪の(遺志)を(適)切に(完)(遂)して、(家庭)(円)満な
      婿(「む」こ)養子殿”と覚えましょう。

     <使い分け方>
      ┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
      ┃「む」が次のような形になっている。 ┃
      ┃ ・「む」+名詞             ┃──Yes─→【仮定・婉曲】
      ┃ ・「む」+連体形接続の助詞    ┃
      ┃         「を・に・の・は・が」  ┃
      ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
                  │                   
                  No                  
                  ↓
          <主語の人称はどれか?>
                  │
       ┌──────┼──────┐           
       ↓          ↓        ↓          
 
      一人称      二人称      三人称   ※ 「むず」も考え方は
       ↓          ↓         ↓        同じです。
       【意志】    【適当・勧誘】    【推量】


     【意志】…「~しよう」
        [例] 「われこそ死なめ。」とて泣きののしる。
             (「私こそ死のう。」と言って泣きわめく)

     【適当・勧誘】…主語が2人称で、「こそ…め」「てむ」「なむ」の形である
               場合には、この意味になる。

      ・適当…「~がよい」
        [例] とくこそ試みさせたまはめ。
             ([あなたが]早くお試しなさるのがよい)
            子というもの、なくてありなむ。
             ([あなたが]子というものを持たない方がよい)

      ・勧誘…「~てください」
        [例] 花を見てこそ帰り給はめ。
             ([あなたが]花を見てお帰りになってください)
            翁の申さむことは、聞き給ひてむや。
             ([あなたが]翁の申し上げる事をお聞きくださいませんか)

     【推量】…「~だろう」
      [例] 山郭公いつか来鳴かむ。(ホトトギスはいつ来て鳴くのだろうか)

     【仮定・婉曲】→婉曲の方が圧倒的に多いので、まずは婉曲で考えて
               みて、どうしても仮定でないとおかしければ仮定とする。

      ・仮定 …「~たら」
        [例] 銭あれども用ゐざらむは、全く貧者と同じ。
            (金があっても使わなかったら、全く貧乏人と同じである)

      ・婉曲 …「~ような」(訳さないこともある)
        [例] 月のいでたらむ夜は、見おこせ給へ。
             (月が出ているような晩は、月をご覧になってください)

  ◎「らむ」(※「らん」と表記することもあり)
    語源は「あり+む」(ari+mu=ramu)なので、「あるだろう」という現在推量
    を表すと考えればよい。

    ★活用
         「む」の活用で、活用形が存在するものの前に、「ら」を
         つけると覚えよう。
        ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
                 未然 連用  終止 連体 已然  命令
          「らむ」 ┃  ○   ○  らむ  らむ  らめ  ○
        ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

    ★接続 … 活用語の終止形(但し、ラ変型の活用語の場合は連体形)

    ★意味
      ・現在推量 … 「~ているだろう」
        [例] 風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君が一人越ゆらむ
            (風が吹くと沖の白波は立つ、その立つという名の立田山を
             夜半に夫はたった一人で今頃は越えているのだろうか)

      ・現在の原因推量 … 「どうして~ているのだろう」
        [例] ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ
            (日の光がのどかな春の日であるのに、どうして落ち着いた
             心もなく桜の花は散っているのだろう)

      ・伝聞・婉曲 … 「~そうだ」・「~ような」
        [例] [鸚鵡ハ]人の言うらむことをまねぶらむよ。
            (オウムは人の話すようなことをまねするそうだよ)  
       

  ◎「けむ」(※「けん」と表記することもあり)
    「けり」が過去の助動詞なので、「けり」と推量の「む」が融合した「けむ」は
    過去推量を表すと考えればわかりやすいでしょう。

    ★活用
         「む」の活用で、活用形が存在するものの前に、「け」を
         つけると覚えよう。
        ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
                 未然 連用  終止 連体  已然  命令
          「けむ」 ┃  ○   ○  けむ  けむ  けめ  ○
        ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

    ★接続 … 活用語の連用形に接続します。

    ★意味
      ・過去推量 … 「~ただろう」
        [例] 心にも悲しと思ひけむ。(心にも悲しいと思っただろう)

      ・過去の原因推量 … 「どうして~たのだろう」
        [例] いかでかかることありけむ。
            (どうしてこんなことがあったのだろう)

      ・過去の伝聞・婉曲 … 「~たという」・「~たような」
        [例] かの池にありけむとびは、実のとびにはあらじ。
            (あの池にいたというとびは、本当のとびではあるまい)

 2)「べし」…「む」の意味を強くした助動詞
   ★活用
      形容詞の”ク活用”から命令形を消し、残りの物の前に「べ」を
      つけると覚えましょう。
     ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
             未然  連用   終止  連体   已然   命令
       「べし」 ┃ べく   べく   べし   べき   べけれ  ○
              べから べかり      べかる
     ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

   ★接続 … 活用語の終止形(但し、ラ変型の活用語の場合は連体形)

   ★意味
     「べし」の意味は、「む」の意味とほぼ同じだが、【適当・勧誘】の部分に
     「命令・当然」が付け加わります。
     また、【推量】の派生として、「可能」の意味も出てきます。

     ・意志 [例] わが身のこと、ありのままに申すべし。
               (我が身の事を、ありのままに申し上げよう)

     ・適当・勧誘・命令・当然
       [例] 家の造りやうは、夏をむねとすべし。 <適当・勧誘>
            (家の造り方は夏を主とするのがよい)

           「頼朝が首をはねて、わが墓の前に掛くべし。」 <命令>
            (「頼朝の首をはねて、私の墓の前に掛けよ」)

           人死を憎まば、生を愛すべし。<当然>
            (人は死を憎むならば、生命を大切にしなければならない)

     ・推量 [例] 深き志は、この海にも劣らざるべし。
               (深い志は、この海にも劣らないだろう)

     ・可能 [例] 羽なければ、空をも飛ぶべからず。
               (羽がないので、空を飛ぶことができない)

      ※「べし」の意味は、「む」と共通するものが多いが、「む」に比べると、
        「べし」には確信的な気持ちが含まれます。

 3)「まし」
   ★活用
     ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
             未然  連用  終止  連体  已然   命令
       「まし」 ┃ ましか  ○   まし   まし   ましか  ○
              ませ
     ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
      ※2つの未然形 … 「ましか」は平安時代の未然形であり、
                  「ませ」は奈良時代以前の未然形です。

   ★接続 … 活用語の未然形に接続します。

   ★意味
    ・反実仮想 … 事実に反することを仮に想定した、
             「もしそうなら、そのときはこうだろうに」といった推量

     【”反実仮想”は次の形をとる!】
     ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
        ┌ ましかば(ませば) ┐
      ~ ┤ せば          ├ …まし  
         └ 未然形+ば     ┘
                         [意味]「もし~ならば、…だろうに」
     ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

      [例] 鏡に色・形あらましかば、映らざらまし。
           (もし鏡に色や形があったならば、何も映らないだろうに)

          世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
           (もし世の中に全く桜がなかったならば、春を愛でる人の心は
            のんびりしたものだろうに)

          涙にも思ひの消ゆるものならばいとかく胸は焦さざらまし
           (もし涙で心の思いが消えるものだったならば、本当にこんな
            に胸を恋の思いで焦さないですむだろうに)

    ・ためらいの意志・実現不可能な希望
      [例] <ためらいの意志> 
            これに何を書かまし。 (これに何を書こうかしら) 

          <実現不可能な希望>
            見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむ後ぞ咲かまし
            (見てくれる人もいない山里の桜花よ、できれば他の桜が
             散ってしまった後に咲いたらよかったのに)

 4)推定の助動詞 … 「らし・めり・なり」
   この3つの助動詞の接続はすべて、
   活用語の終止形(但し、ラ変型の活用語の場合は連体形)となります。

  ◎「らし」(※現代語の「らしい」に当たる)
   ★活用
     終止形・連体形・已然形しかなく、しかも無変化で、全部「らし」となる。

   ★意味 … 確かな事実を根拠とした推量
     [例] 春過ぎて夏来たるらし白妙の衣干したり天の香具山
      (春が過ぎて夏が来たらしい。
                 真白な衣が干してある、天の香具山の辺りには。)
      ※ 夏用の白い着物が干したあるのを見て、「夏が来たらしい」と推定。

  ◎「めり」
   ★活用
       まず、未然形と命令形がない(両端ナシ!)ことを覚え、
       「り」で終わる活用語の活用である
             ラ変型の変化[ら・り・り・る・れ・れ]
       から、未然形の「ら」と命令形の「れ」を消し、残りの物
       の前には「め」をつけると覚えましょう。
       ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
              未然 連用 終止 連体  已然 命令
         「めり」┃ ○  めり  めり  める  めれ  ○ 
       ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

   ★意味・・・語源は「見え+あり」 mie+ari =meri
     ・(視覚内の)推定 … 「(見たところ)~ようだ」
       [例] [見ルト、尼ガ]すだれ少し上げて花奉るめり。
        (見ると、尼がすだれを少し上げて花をお供えしているようだ)
     ・婉曲 … 「~ようだ」
       [例] いでや、この世に生まれては、願はしかるべき事こそ多かめれ。
        (さて、この世に生まれた以上、こうありたいという願いは多いようだ)

  ◎「なり」(※伝聞・推定の助動詞とも呼ばれる)
   ★活用
       ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
              未然 連用  終止 連体 已然 命令
         「なり」 ┃ ○   ○   なり  なる なれ  ○
       ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

   ★意味・・・語源は「音(ね)+あり」 ne+ari =nari
     ・(聴覚的な)推定 … 「(聞いたところ)~ようだ」
      [例] 物語してゐたるほどに、人々あまた声して来なり。
        (話をしているうちに、たくさんの声がして人々がやって来るようだ)
 
     ・伝聞 … 「~という」
      [例] また聞けば、侍従大納言の御女なくなり給ひぬなり。
        (また聞くところによると、
                  侍従の大納言の娘君が亡くなられたということだ)

□打消推量の助動詞
 1)「じ」…「む」の打消
  前回扱った「ず」が単なる打消なのに対して、「じ」は、打消推量・打消意志
  の意味を持った助動詞です。

  ★活用
    終止形・連体形・已然形しかなく、しかも無変化で、全部「じ」となる。

  ★意味
   ・打消推量
     [例] 劣り優りは、よもあらじ。 (よもや優劣はないだろう)

   ・打消意志
     [例] 京にはあらじ、東の方に住むべき国求めにとて行きけり。
      (京には住まないつもりだ、東国の方に住むのによい国を求めに
       行こうと思って出かけた) 

  ★「じ」の接続 … 活用語の未然形に接続します。

 2)「まじ」 … 「べし」の打消
  ★活用
     形容詞の”ク活用”から命令形を消し、終止形を「まじ」にして、残り
     の物の前に「まじ」をつけると覚えましょう。
     ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
             未然   連用    終止  連体    已然    命令
       「まじ」┃ まじく    まじく   まじ  まじき   まじけれ  ○
             まじから まじかり      まじかる
     ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

  ★意味
   ・打消意志 [例] なほ仕うまつるまじきことを参りて申さむ。
           (やはり宮仕えしないつもりである事を参上して申し上げよう)

   ・不適当・禁止・打消当然
     [例] 妻といふものこそ、男の持つまじきものなれ。 <不適当>
          (妻というものは、男は持たないのがよいものである)

         「死ぬまじきぞ。自害なせそ。」と仰せられけり。<禁止>
          (「死んではいけない。自害するな」と仰った)

         言ふまじきことを言ひ、思ふまじきことを思ふ。 <打消当然>
          (言うべきでないことを言い、思うべきでないことを思う)

   ・打消推量 [例] 唐の物は、薬のほかは、なくとも事欠くまじ。 
           (中国産の物は、薬の他は、なくても不自由しないだろう)

   ・不可能  [例] たやすく人寄り来まじき家を造りて、 
            (容易に人が近寄って来ることができそうもない家を造って、)

  ★「まじ」の接続 … 活用語の終止形(但し、ラ変型の活用語の場合は連体形)

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